2026.05.14 · 経営としくみ

AIを使えば誰でもできる、は本当か

ChatGPTやGeminiといったチャット型の汎用AIを使うと、ちょっとした挨拶文からディープリサーチでしっかり調査されたレポート、画像やインフォグラフィックスなど、様々なものを生成できます。Claude CodeやCodex、Gemini CLIといった開発AIエージェントを使用すると、プログラムも作ってくれます。それはまぁ、皆さん百も承知の話だと思うのです。

前にも少し触れましたが、このWebサイトも、どんなサイトを作るかというコンセプトワークはChatGPTとのディスカッションのもとに生まれたものですし、それをもとにClaude DesignがWebサイトデザインをしました。さらに、WordPressのテーマにしたのはClaude Codeです。そんなことができてしまうのが、AIの現実。

AIさえ使えば誰でもできるのか

という、どーだ凄いだろ!みたいな話で終わったら、AIを使えば誰でもそんなことができるのですね・・・凄い凄い、ということになるのですが、本当にそうなのだろうか?というのが、今回のメインテーマ。

実際には、そう上手くは行かないと思うのです。ChatGPTでのコンセプトワークは、自分がやりたいことが分かっていればなんとかできます。ただ、少し経営戦略めいたものにしようと思えば、PEST分析やSWOT、クロスSWOT、BMC(ビジネスモデルキャンバス)、5 Forceといったフレームワークがあるといった、経営戦略を作るための定石を知っておいた方が、圧倒的に生成AIを上手く使えます。そういう定石はAIも知っているので、ツーと言えばカーで、話が通じるのです。

私はデザインのことはあまり詳しくありませんが、自分の名刺をIllustratorで作れるくらいには知っているし、自分でWordPressテーマを作ったこともあるので、それくらいには分かります。だから、Claude Designが作ったデザインがどうなのか?という評価はまぁまぁできるし、配色のコントラストとか、文字のフォントとサイズの構成とかは、「ノンデザイナーズ・デザインブック」に書いてある程度にはできる。

さらに、Claude Designが作ったデザインをHTMLでエクスポートして、Claude CodeでWordPressテーマ化するにあたっては、コーディングはたしかにAIだけど、そもそもWordPressがあることや、テーマを作ると思った見た目になること、問い合わせフォームなどの機能を盛り込むためにプラグインを使ったり、場合によってはテーマの中にその機能を作り込むことができること、投稿と固定ページの違いとか、カスタム投稿タイプとは何ぞやということを知っていて、それを踏まえてAIに指示をすることができる。

つまり、そういう知識というかスキルがあったからこそ、AIを使って圧倒的な生産性を発揮することができたわけです。逆に言えば、自分が経営戦略のフレームワークを知らない、デザインの「デ」の字も分からない、プログラムのコードを見た瞬間に鳥肌が立つといった状態だったら、いかにAIがあったって、同じようにはできていないわけです。

そもそも、作ったWebサイトをサーバーで公開しないといけませんし。そのスキルも必要ですね。

それはプロンプトエンジニアリングではない

AIに指示を出すためにはプロンプトだ、というわけで、「そういう時はどういうプロンプトを書いたら良いのですか?」、「やっぱりプロンプトエンジニアリングを学ぶべきですね」という方がいらっしゃるのですが、果たしてそうでしょうか?

たしかにプロンプトを書く必要があることは違いありません。しかし、そのプロンプトがどうあるべきかというと、自分がやって欲しいことを、できるだけ背景知識を含めて、構造的に書くということです。ある意味、システム仕様書を書くようなもので、そのためには、AIにやって欲しいこと自体の知識があった方が、絶対に良い仕様が書けるわけです。

それは根本的な知識や、それまでの経験に基づくものであって、決してプロンプトエンジニアリングと矮小化できるものではないでしょう。それをざっくり言えば「日本語力」ということになるのかもしれません。それは美しい文章を書く力という意味ではなく、自分の目的、前提、制約、判断基準などを相手に伝わる形で整理する力です。

AIは掛け算

私が前から言っているのは「AIは掛け算だ」ということです。ある分野で、もともとのスキルがゼロの人がAIを使っても、大きな成果を挙げることは難しい。もちろん、AIはスキルがない人にも入口を開いてくれます。これまでなら手も足も出なかったような分野に、最初の一歩を踏み出せるようにはできる。それは大きな価値でしょう。

一方で、スキルが10ある人がAIを使えば、100倍して1,000の成果が出せるかもしれないし、スキルが100ならAIが10,000の成果にすることもできる。そういう掛け算だと思います。一定以上の成果に仕上げるためには、やはり人間側が基礎知識を持っていないといけないわけです。

AIはゼロから90%くらいのところまではやってくれる。しかし、あとの10%を埋めるスキルが人間側にないと成果に到達できない。その残る10%を埋めることができるかどうかが、いわゆるAIを使いこなすための分水嶺ではないでしょうか。

重要なのは、ここで「スキル」と言っているのは、決してAIのスキルではないということです。先ほどの例で言えば、経営戦略を考えるスキル、デザインのスキル、プログラミングのスキル・・・といった、AI登場以前から人間が持っている知識、経験のことを言っています。

そうした各分野の専門家は、今後も必要ではないかという話になるのですが、それは次回考えてみることにしましょう。

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井上 研一
経済産業省推進資格ITコーディネータとして中小企業のDX・AI活用の現場で伴走支援を行う。「ITCプロセスガイドライン4.0」および「中小企業向けAI活用ガイド」執筆メンバー。著書・講演多数。ITエンジニアとして25年以上の実務経験。AI導入の実務に10年以上携わる。自ら開発したAIサービス「Gen2Go」が北九州発!新商品創出事業の認定を受ける。2026年4月より北九州市立大学大学院マネジメント研究科の学生としての顔も持つ。

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