2026.05.20 · 経営としくみ

AIが90%を作る時代に、10%を誰が埋めるのか

前回の記事で、AIで本当に成果を出すためには、その分野でのベーススキルが必要だということを書きました。AIは掛け算の成果をもたらすので、ベーススキルがあるほど得られる成果が大きいという内容です。

AIはゼロから90%くらいまでの成果物を作ってくれると思います。もちろん、指示の内容とか与えた情報によってこの90%という値は変動するのですが、なかなか100%までをやってくれることはありません。それは、AIの精度が不足しているというだけではなく、そもそもAIが直接、操作ができない領域もあるということも含みます(例えば、WebサイトのコーディングをAIがしても、サーバへのデプロイまではしてくれないなど。これもAIが動いている環境とか、サーバの構成によりますけどね)。

仮に90%までの成果物をAIが作ってくれるとして、残る10%を誰がやるのか?というのが、今回の主題です。

その10%を埋めるのが専門家の存在意義ではないか

結論からいうと、そういうことになります。

Webサイトであれば、ITエンジニアやWeb制作者が専門家ということです。
経営戦略であれば、コンサルタントや経営者自身でしょう。会計であれば経理担当者や税理士、法務であれば弁護士や法務担当者、製造現場であれば現場の熟練者など、この社会にはいろいろな種類の専門家がたくさんいます。そのための教育を受けてきていて、経験も積んでいる。

そもそも、AIから90%を引き出せるのも専門家ならではかもしれません。ある分野の専門でない人がAIの助けを借りても、70%くらいの成果物しか引き出せないかもしれない。同じAIでも、その分野の専門家なら90%まで引き出せる。これはAIへの指示の仕方の違いです。それをプロンプトエンジニアリングと呼ぶなら、そう呼んでもいいけど、どちらかというと、その専門家が持っているベーススキルがあるからこそ、しっかりした指示が出せた(プロンプトが書けた)という方が正しいでしょう。

それでも、AIは90%までが限界だと思う。たしかにそれっぽいものはできるけど、本当にそれを使って良いのか、危なくないか、現場に合っているかなど、本当の意味で動かすための、魂入れみたいなことは、専門知識を持った人間がやる必要がある。

AI時代の専門家は「作業者」ではない

これまでの専門家は、基本的には自分の手で作る人でした。
自らコードを書く、資料を作る、文章を書く、設計する、分析する。
もちろん、そのために専門知識が必要であり、その知識があるからできることなのです。

しかし、AIがその多くを担うようになると、専門家の役割は変わります。

AIに前提条件や指示を与え、成果物の間違いに気づいたり評価をする。現実に沿った調整をする。場合によっては人と交渉する必要もあるかもしれません。リスクを見極める。業務に落とし込む・・・。

つまり、専門家は「AIに作らせる人」となり、AIの成果物を「現実世界に接続する人」になります。

専門家とAIの協働

そうした時代の専門家は、自分の専門分野をAIと一緒にやるスキルが必要になります。

いまはまだ、AIの話だといって、相談事がAIの専門家として目されている人(例えば私)にくるのですが、深掘りしてみると、実はWebサイトが作りたいという話だったり、経営戦略を策定したいということだったりする。ただ、それを「AIを使ってやりたい」というだけです。
AIを使って自分でできれば、相当なコスト削減になる可能性が大きいですしね。

そういった内容は、本来、「本当にやりたいこと」に関する専門家に相談した方が良い。
ただ、その専門家がAIを使えない人だと、困ってしまう・・・というだけです。

以前でいうと、会計ソフトの使い方とか選び方をITだからといってプログラマに聞いても、そのプログラマが会計のことを知らなければ回答できないのです。かといって、会計の専門家に聞いてもITのことを知らなければ回答できない。つまり、ITも分かる会計の専門家が必要だ、ということです。

それと同じで、「AIも分かる○○の専門家」が必要ということになります。

専門家もいらないという時代は来るか

AIがさらに進化すれば、その分野の完全な素人からのリクエストに対しても完璧な成果物を出してくれるようになるかもしれません。

そうなれば、専門家すら必要なくなるかもしれない。人間の役割はさらに変わってきます。

なんとなく、そのためには脳にチップを埋め込む必要性がありそうですが・・・、それは冗談として、それができる鍵を握るのは、その業界、その企業、その人に特化したデータの存在です。あとは、必要な場所にAIが手を出せるようにするためのコネクタ的なものが整備されること。

コンピュータの中の世界であればソフトウェア的に実現できますが、物理的な世界だとIoTセンサーやアクチュエータ、ロボット、さらにAIに雇われた人といったものが必要になります。(また、SFめいた話になりました・・・。でも、あながち空想上の話でもないんだな・・・。)

次回は、業種や業務に特化したAI、いわゆる「バーティカルAI」が、この専門家が埋めている10%をどう変えるかについて考えてみたいと思います。

← AIを使えば誰でもできる、は本当か 2026/05/20 13:05
井上 研一
経済産業省推進資格ITコーディネータとして中小企業のDX・AI活用の現場で伴走支援を行う。「ITCプロセスガイドライン4.0」および「中小企業向けAI活用ガイド」執筆メンバー。著書・講演多数。ITエンジニアとして25年以上の実務経験。AI導入の実務に10年以上携わる。自ら開発したAIサービス「Gen2Go」が北九州発!新商品創出事業の認定を受ける。2026年4月より北九州市立大学大学院マネジメント研究科の学生としての顔も持つ。

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