前回の記事では、AIが90%の成果物を作ってくれる時代に、専門家は何をするのかを考えました。そこでは、AIが作ったものを現実世界に接続する人として、専門家の必要性は変わらない、残る10%を埋める存在が専門家であるという結論に至ったわけです。
国と大企業の方向性
5月28日の日経新聞に、ソフトバンクが日本AI基盤モデル開発という会社を新設し、NEC、ホンダ、ソニーグループを含めた4社が中核となり、安川電機や富士通、旭化成など30社も出資を検討して、AIの製造業連合を作るという報道がありました。2027年を目処に国産大規模AIモデルを開発し、2030年代初頭には重さ、温度、位置、距離など現実世界の情報を統合的に扱えるようにするという構想です。
これは先日、自民党が発表した「AIホワイトペーパー2.0」で謳われている、バーティカルAI(業種・業務特化AI)やフィジカルAI(主に製造現場のデータを取り込み、機械やロボットを自律的に制御・駆動させるAI)の方向性に同期したもので、国や大企業がAIを使った国際的に戦っていく方向性として理解することができます。
中小企業はどう捉えるべきか
バーティカルAIを進めていく(その中で主に製造業などでフィジカルAIも必要となる)という大きな流れの中で、中小企業はこの流れをどう捉えるべきでしょうか?
こうした大規模なAIを自ら開発するということは現実的ではないので、バーティカルAIを搭載したツールを導入するということになるでしょう。それが工場のように物理的な作業がある現場ではフィジカルAIを搭載したロボットや機械、バックオフィスでは業務に特化したAIが搭載されたSaaSが考えられます。
こうしたバーティカルAIはその業種・業務に特化しているため、いま汎用AIとの10%の差を埋めている専門家の領域を削っていくかもしれません。汎用AIにちゃんと伝えなくても、バーティカルAIであればもう分かっているのですから。
バーティカルAIは自社特化AIではない
ただ、注意するべきこととしてバーティカルAIといえども、あくまでその「業種・業務」に特化したAIであって、「自社」に特化したAIではないことがあります。
AIエージェントなどが業務を自動化していこうとする時代には、AIは業種・業務レベルでの特化では足りず、自社に特化させておく必要があります。バーティカルAIでも、まだ溝は埋まりきっていないのです。
そこで必要なのが自社のデータということになります。バーティカルAIが謳われて登場するツールは、それがAIだというのなら、さらにデータを加えて自社に特化させる方法が準備されるはずです。(それが提供されていないのなら、なんちゃってバーティカルAIかもしれない。)
その方法は提供されたAIモデルをベースに自社データで再学習するファインチューニングかもしれないし、自社データを適宜参照させるいわゆるRAGタイプのものかもしれない。その方法の如何は問いませんが、データが必要だということは間違いありません。
いま、何をするべきか
そう考えると、中小企業が今やるべきことは、自社の業務を整理し、データを蓄積し、AIに参照なり学習なりをさせられる状態にしておくこと。その準備こそが、バーティカルAIが一般に提供されるようになったときに、自社の競争力の源泉になるのではないでしょうか。
