企業における生成AIの導入が進んでいます。しかし、会社がAIツールを用意したからといって、現場で充分に活用されているかというと、必ずしもそうではなさそうです。
SDEパートナーズが、従業員300人以上の企業で業務上、生成AIを利用している1,041人を対象に行った調査では、83.0%が全社標準として導入されている生成AIツールについて、機能や精度が実務レベルに達していないと感じているようです。
また、70.3%が全社標準以外の生成AIツールを日常的、または特定の業務で併用しているという回答をしています。
会社としてAIを導入していても、現場は別のAI(シャドーAI)も使っているということです。業務に適したAIが会社から提供されていないということでしょう。
実務レベルに達していないと感じている人で、シャドーAIを使っていない人は、AIを使うことを諦めたということかもしれません。それとも、使えるツールとは別の理由があるのか。最初の設問が、自身の業務において「機能や精度が実務レベルに達していない」というものなので、必ずしもツールが原因ではなく、AIに与えても良いデータが会社の規定で限定されているから・・・というのもあるかもしれません。
私の経験や現場でのヒアリングも踏まえると、現場でAIが成果を出せない理由は、少なくとも2つあると思っています。
1つは、この調査が示すとおり、業務に適したAIツールを使えないことです。
もう1つは、AIツールを使えても、業務に必要なデータをAIに見せられないことです。
つまり、ツールの問題と、データの問題があるわけです。
今回は、主に1つ目の「使えるAIツール」の問題について考えます。
標準ツールを決めることは必要
企業が標準のAIツールを決めること自体は当然に必要です。社員がそれぞれ自由にAIサービスを利用すれば、契約、費用、アカウント管理、情報セキュリティ、個人情報、監査などの管理が難しくなります。
例えば、既にMicrosoft 365を利用している企業がCopilot、Google Workspaceを利用している企業がGeminiを標準ツールとして選ぶことは自然です。既存の認証基盤やファイルストレージ、管理コンソールなどとの親和性が高いためです。
一方で、既存の業務基盤に合わせて標準AIを選べば、そのAIが現場のすべての業務に適しているかというと、それは違います。各社のAIツールは競争の真っ最中であり、他社のサービスと比べると、少なくともいまは使い勝手が悪いといったこともあります。
AIツールにはそれぞれ特徴があり、文章作成、調査、資料分析、コーディング、データ分析、画像生成、業務エージェント・・・と、AIの用途を並べていくと、使いやすいサービスは用途によりけりです。また、同じサービスでも、契約プランやオプションの有無によって、利用できるモデルや参照できるファイルの種類、エージェント機能、社内データとの連係範囲など、いろいろと異なります。
そのため、会社からAIが提供されていても、現場から見れば「AIは使えることになっているが、自分がやりたいことはできない」という状態が起きてしまうのです。
標準ツールを導入しただけでは足りない
問題は、標準ツールを決めた時点で「当社のAI活用環境は整った」としてしまうことです。
本来は、次のようなことを継続的に確認する必要があります。
- 標準ツールでどの業務ができるのか
- どの業務では機能が不足するのか
- 上位プランや追加機能によって解決できるのか
- 別のAIツールを使った方が適している業務があるのか
- 将来の機能追加を待つべきか(それまでの代替手段をどうするか)
一般的な文章作成であれば、どのようなAIツールでもだいたい充分ですが、複数の資料を継続的なナレッジとして利用する専用エージェントや、高度な調査、コーディング、PC上の作業の支援などが必要な場合は、別のAIツールが必要になることがあります。
一つのAIツールを決めただけで、AIが活用できるすべての業務を最適に処理できるとは限りません。
「必要なら申請してください」は効果的か?
企業によっては、標準以外のAIツールであっても、申請して承認を受ければ利用できるようになっていることがあります。
これは、自分で新たなAIツールを探し出して、すぐに試してみることができる人にとっては、効果的です。このような承認を受ければ使えるという仕組みがなければ、シャドーAIに流れてしまう可能性があり、それを防ぐことができます。
しかし、誰にとってもこの仕組みが効果的とは限りません。AIを使い始めたばかりの人は、会社が標準と指定したAIツールを使ってみるだけで精一杯であり、それでうまい出力ができなければ、AIとはその程度のものだろうとか、自分の能力では限界だと手を挙げてしまいます。ある程度の成果が得られる可能性はありますが、それでも実は他のツールを使えば、もっと簡単にできるのに・・・ということもあります。
そうした場合は、AI活用リーダーが育成されていれば、もっと良い方法を実際に使っている様子を見せることができます。どのツールを使い、プロンプトはどう書くか、どのようなデータをAIに与えるか、期待した回答が得られなければ、どう修正するか、AIの出力のどこを確認するかといったことは、実際に使い方を見せることが最良の学習法だったりします。
AI活用リーダーがいなければ、外部の専門家に伴走してもらうという方法もあるでしょう。
そうやって、別のAIツールを使えばこんなに便利になるということが分かって、初めて必要なAIツールを使えるように申請しよう、ということになります。
もう一つの問題は、AIにどのデータを見せるか
ここまで、使用可能なAIツールをどう整理するかについて考えてきました。
しかし、業務に適したAIを使えるようにすることだけで充分というわけではありません。
仮に充分な機能を持つAIツールが用意されていても、「顧客名を含む資料はアップロード禁止」、「社外秘の情報も禁止」というAI活用ルールがあるとすれば、AIでできる業務は大きく制限されます。
もちろん、なんでもOKにすれば良いというつもりはありません。公開情報の検索や、挨拶文など一般的な文章作成だけでも、AIを使う価値はあるでしょう。しかし、AIに実務上の価値を発揮させ、業務を大きく変えようとするならば、自社の資料、顧客とのやり取り、会議記録、過去の提案内容、業務データなど、企業固有の情報を与えることが必要です。
顧客名や機密情報を含むという理由だけで、会社で承認されたAIツールであっても一律に入力禁止とすることが、本当に適切なのか。会社のAI活用ルールを考える際に、このことは本当に真剣に考えなければなりません。この点については、次の記事で考えてみたいと思っています。
AIを配るだけで、AI活用が進むことはない
繰り返しになりますが、企業が標準のAIツールを決めることは必要です。しかし、それだけで社内のAI活用が進み、業務上の価値を充分に発揮できるというわけではありません。
AI活用に関する社内ルールを決めることも必要でが、それが単に利用を制限するためのものであってもいけません。
どのような業務でAIが活用できるのか、そのAIはどんなものなのか、どこまでのデータをAIに見せて良いとするのか。それぞれの設計がきちんとできてこそ、AIは真の価値を発揮するのです。
