2026.05.08 · 経営としくみ

個人のAI活用の総和を、組織のAI活用としてよいのか

主に北九州での中小企業のDX支援に関わり始めて、数年が経ちます。
最近は、AI活用に関する相談が増えてきたという実感があります。

AIといっても相談内容はいろいろです。経営者1人だけとか、数人程度の小さな組織であれば、目の前の業務に対して「どうAIを使えば良いか」という具体的な相談が多いです。

一方、ある程度の規模がある組織で、DX担当者から相談を受ける場合は、少し様子が変わってきます。組織として、どのAIツールを使えばよいか、そもそもどの業務にAIを使えばよいか。セキュリティや情報管理はどう考えればよいか。そうした話になってきます。

個人でAIを使うこと

個人でAIを使う分には、多くの場合、活用ノウハウの話で済みます。

昨今、世の中には、AIに関する情報があふれています。新しいAIツールが次々に登場し、既存のツールにもAIを活用した新たな機能がどんどん組み込まれています。これを追いかけるのは大変です。

私自身、そのすべてを追えているわけではありません。支援の現場でも、都度、最新情報を調べながら回答することがあります。「YouTubeなどで探してみると、具体的な使い方が分かると思います」と伝えることがありますし、SNSでAI関連の情報が流れてくるコミュニティやグループを紹介することもあります。

それくらい、個人でAIを使うための情報は多くあります。

実際、AIを個人で使う分にはとても便利で、私自身、ChatGPTなどと雑談するのは日常茶飯事です。何かあった時の壁打ちというだけでなく、日常的な相談相手になっています。

今回立ち上げたこのWebサイトも、コンセプトメイキングはChatGPTと行い、WebデザインはClaude Designにお願いし、できあがったデザインのWordPressテーマ化はClaude Codeがこなしました。もう、百人力です。

優秀なコンサルタントとデザイナーとプログラマーを、個人的に雇っているような感覚さえあります。そもそも、プログラミングについては、今回のWebサイトだけでなく、日常的に開発してもらっていますし…。

私は、どう進めるかを判断し、あとはこうして文章を書いて、コンテンツを作ることに時間が使えています。(もちろん、このサイトでAIが書いた文章をそのままコピペして載せるつもりはありません。どういう内容にするかを相談したり、下調べをしてもらったり、書いた文章に指摘をもらうことはありますが、文章そのものは自分が時間をかけて書くつもりです。)

いずれにせよ、AIを使いこなせる個人の生産性が大きく上がることは、はっきりしています。

組織でAIを使うこと

一方で、組織としてAIを使うとなると、話は難しくなります。

実際の支援で、ある程度の規模の組織で、経営層から「AIを使って生産性を上げよう」と言われた担当者の悩みを聞くことがあります。もっとも、経営者が能天気に号令をかけているだけという話でもなく、経営者自身がAIをしっかり使いこなしていて、社員にどう使ってもらうかを悩んでいるケースもあります。

その担当者は、どの業務にAIを使うのかを考える必要があり、何かよい事例がないかと探している。特に、組織的にAIを使って生産性が向上したものが欲しい。しかし、そうした事例はなかなか見つからないのです。特に、中小企業で、となると。

もちろん、事例がないわけではありません。コンタクトセンターにAIチャットボットを導入するようなものは、生成AIは導入しやすい。生成AIは回答を生成するものであり、質問に回答する業務への適性が高いのは当然です。

当たり前のことですが、回答すること自体が目的の業務ばかりではない。では、何にAIを使えばよいのか。

業務に組み込むのか、個人に任せるのか

従来からのIT化を振り返ってみると、業務を棚卸してIT化する業務を決め、その業務に合うシステムを作る、あるいは導入する。そして、できあがったITシステムをみんなで使う、という進め方でした。

この考え方を、生成AIの使い方に当てはめることができます。業務の棚卸をして、AIが使える箇所を見つけて、例えばプロンプトガイドのように整理する。使い方と操作方法を決め、社員はその方法に沿ってAIを使う。

ただ、AI活用をITシステム開発と同じように考えると、適用業務はある程度、定型化されている必要があります。定型業務であれば、まずは通常のIT化を考えた方が良いかもしれない。

AIによる生成処理を既存のITシステムに組み込むこともあります。そうすれば、社員はプロンプトを考える必要はなく、そもそもAIを使っているという感覚もない。従来どおりITシステムを使っているだけで、AIの恩恵を受けていることになる。
これは、私が数年前から手掛けていたことでもあり、実績もいくつかあります。

しかし、AIに向いている業務を考えたとき、アドホックな用途、つまり非定型な業務の効率化こそがAIに向いているのではないか、という気もします。
それぞれの人が、自分の仕事の中でAIを使う。自分なりに工夫する、自分の作業を効率化する。個人でのAI活用は、そうしたアドホックなものが多いでしょう。

個人のAI活用による生産性向上の総和が、組織としての生産性向上であり、組織としては、個人のAI活用スキルを高めればよい、という話になります。

本当にそれでよいのか

ただ、本当にそれでよいのだろうか、と思うのです。

個人のAI活用を否定したいわけではありません。AI活用はそこから始まるのだと思います。
しかし、個人によるAI活用の生産性向上の総和以上の効果を、組織によって生み出せるようにならないといけないのではないか。

そこには、まだ考えるべきことがあるように感じています。

組織として考えるのであれば、どの業務で、何を改善するのか。その改善をどう測るのか。個人の工夫をどう共有するのか。使う人と使わない人の差をどう扱うのか。リスクやルールをどう考えるのか。そして、それを次の改善にどうつなげるのか。

そうした視点も必要になるはずです。

私自身、この問いに対する明確な回答を持っているわけではありません。

これは今後、私が考えていきたいテーマです。
このサイトにこれから書いていくことの、リサーチクエスチョンのようなものとして、まずは書いておきたいと思います。

← inouekenichi.jpを正式に公開しました 2026/05/08 17:58
井上 研一
経済産業省推進資格ITコーディネータとして中小企業のDX・AI活用の現場で伴走支援を行う。「ITCプロセスガイドライン4.0」および「中小企業向けAI活用ガイド」執筆メンバー。著書・講演多数。ITエンジニアとして25年以上の実務経験。AI導入の実務に10年以上携わる。自ら開発したAIサービス「Gen2Go」が北九州発!新商品創出事業の認定を受ける。2026年4月より北九州市立大学大学院マネジメント研究科の学生としての顔も持つ。

本サイトおよびブログに掲載している内容は、特に明記のない限り、井上研一個人の見解に基づくものです。所属・関与する組織、団体、企業、研究会等の公式見解を示すものではありません。